1 、本弓(長弓)
長さ7尺1寸、213cmの日本独特の弓は、本弓、長弓と呼ばれ、弓の中の弓であった。主に騎乗から射放たれ、長い矢約1mを使用した。礼射として「流鏑馬」、訓練として「犬追い」などにも使われた。本弓の特色は上下対象ではない。握りが上2、下1の位置についている。
犬追い(上)と流鏑馬(下)いずれも勇壮な弓使いだ。
1、 重籐の弓 村重籐
全長214cm、幅27mm、厚さ23mmと重厚な弓で巻きが全て残っている、握りより上に29巻き、下に15巻きあり、恐らく一人では弦を張ることのできない強さだ。程度が良いのは皮革の収容嚢に入れられていたからだ。この収容嚢は全長230cm、幅12mm、赤漆仕上げ、葵の紋が2個入っている。
2、 稽古用の竹張弓
構造的には木に竹を張り合わせたのであろうが、内側には竹がそのまま出ており節もある。幅は26mm、厚さ16mmで稽古用の矢筒が付いていた。飾り、巻きなどはないシンプルな弓である。
3 糸巻き漆塗りの弓
重ね構造で籐の下も糸で巻きその上に漆を厚く掛けてある弓、幅28mm、厚さ19mmとそれほど強い弓ではなかっただろう。しかし全体に簡潔な巻きで高級品であることがとれる。
上から下半分、中は上半分、下は握りの部分
4、 実用的な黒弓
握りの皮が厚くまかれている。幅26mm、厚さ19mm
籐は要所に幅広く太いものが巻かれている。
上は上半分、中下半分、下握りの部分 使い込まれている。
本弓を持つ侍 北斎漫画より
定尺7尺1寸、矢3尺、このような長大な弓はあまり世界には存在しない。
観察するに断面は台形で厚みがあり、この長さ、太さのものに反対にして弦を掛けると言うのは大変な作業である。練習用の竹弓でもこつがいる。まして戦闘用の太い弓は。二人張り、三人張り、四人張りと言うように複数の人力を要して弦を張る、またその弓を射る、修行し、力を付け、想像を絶する強い力を有していたのであろう。
「雑兵物語」には弓足軽への教えとして「必ず命令された距離より遠くを射てはならない。近くに射るのは構わない。稽古で的を射るより、引絞ってから倍の時間を持ち応えなさい。つがえても引絞っては緩め、緩めては引絞れ」とある。どんな武器兵器でも、落ち着いて操作しなければ効果は少ない。稽古は普通15間(約27m)で行い、通し矢、33間堂の廊下が有名だが、上にも下にもさわらず通す、と言うものがあった。有効射程距離はこれらから換算すると本弓で50m以内ではなかったか。
戦国期の弓足軽には2種類の任務があった。「数弓」をいう普通の作の弓を射る隊の者、主人の高級な弓をもつ「持ち弓」さらに兵站として矢を箱に入れ担ぐ任務の者がいた。
江戸期の巻物「拾五張弓の図 本重藤 末重藤」の「籐」は「藤」であり、「滋」は「重」であった。本書では「重籐」とした。
この巻物は2段に渡り、本弓の籐の巻き方を描き、名称を説明したいる。
5.弓の厚み
上の江戸期、京都18代柴田 勘十郎作は22㎜、中の練習用は16㎜、下の重籐は24㎜と、厚さが異なる。厚い弓は引くに力がいるが、弦を掛けるにも一人ではできない。