2 、鉄錆地当世具足とその小道具類

出陣の祝い

当世具足とは、戦国期が終わり江戸期にかけて製作された具足(鎧兜)類のことである。

江戸期の戦乱は幕末、幕府の長州征伐、戊辰戦争のみで、戦闘方式に抜本的に変革が起きたのは嘉永3年(1863年)の西欧列強と、薩摩、長州の戦闘からである。従って
日本の伝統に従い、新調された幕末までの当世具足はほとんどが実戦で使用されなかった。この「鉄錆地」と言うのは鉄板で製作し、表面に何らかの化学的仕上げをほどこしこれ以上は錆がでないようにしたもので、日本的な鉄表面処理である。
この具足には二つの兜があり、どのように使い分けたかは不明である。この二つの兜の形状は異なるが、まったく同じ作りである。同じ櫃に入っていた。その櫃にはおよそ30点におよぶ小道具が収納されており、現在は別に収めている。
状況から具足はⅠ−2度、着用されたと思われる。「桔梗紋と藤巴紋」を使っていた東京近辺の家のものであった。少なくとも采配をふるった身分にあった侍の所有物だっただろう。立派だ。

1、 小道具の様

① ワラジ 現在のものと異なるのは編みが細かいのと、紐を使っていることだ。
サイズ26㎝。この身分の持ち主が素足で着用したはずはなく、足袋をはき
ワラジを履いた。足袋はこの小物類にはなかった。

② 皮革製の足被い 靴のように見えるが底がない。履いて足首をボタンで止めるが、甲に穴がありそこにワラジの紐も通したようだ。下は漆で仕上げた牛皮製、上は牛皮の裏側(バックスキン)、長さ28㎝、高さ14㎝、くるぶしを包むバックスキンの部分は高さ6㎝。

制式には「甲懸」と言う。
③ 手袋 手の甲には甲の形の鉄製の被いが腕に付いている。この手袋は甲冑の下に着用する腕下、さらにその下に着用するものらしい。とても長い皮革製、バックスキンのもので波型の模様が入った上質な出来だ。長さ33㎝、周囲は手首のところで20㎝、幅2㎝、75㎝の長い紐が付いている。この紐で巻いて固定する。

④ 帯 皮革製で内部に綿を入れ丸くしてある。真ん中の桔梗紋の被いの下には真鍮の尾錠(ばっくる)で長さを調整して占める形式になっている。尾錠はかなり大きい。
長さ120㎝

 

⑤ 刀佩用帯 編み紐に皮革製(固く加工してある)の筒が2個、刀を入れ身体に巻いたものだろう。刀が入る部分は高さ7㎝、幅6㎝の筒状で、その間隔は20㎝。長さ160㎝。一部焦げたあとがある。太刀を佩用するには柄頭とこじりが水平になるようにする、と名和先生の本にある。

鞘入れは固い加工である。
⑥ 紐 藍染めの木綿の太い長い紐である。火縄に使うものではないので、どこかで身体を締めるための紐だったろう。太さ1㎝、長さ180㎝。兜の緒であるかも。

⑦ 脚絆 釦で脚に巻いたもの。絹製で裏が木綿。上部の幅20㎝、下部の幅10㎝、長さ30㎝。真ん中に紐通しの穴がかがってある。

⑧ 直垂 下、袴 絹製 長さ70㎝、股下50㎝

⑨ 直垂 上 絹製 長さ82㎝、肩幅56㎝

⑩ 烏帽子 汗の浸みが出ているので着用したものだろう。幅30㎝、高さ36㎝、紐の長さ150㎝、木綿製で内部は油紙製

⑪ 下袖一対 上はく部、下はく部、ひじに薄い鉄が組み込まれた着物と籠手の間に着用する絹製の袖である。長さ70㎝

⑫ 面ほうと胴の間、を守る重要なものだ。これはのど元だけを保護するが
上は鉄鋲が入った板、横14㎝x縦6㎝、下は鎧の胴があたらないように綿布団に
なっている。横27㎝x縦10㎝。上部の釦で止める方式。

以上が身につけるもので、以下が戦闘際の装具であろう。

⑬ 「日の丸」の扇子。大型で竹と厚紙で造られ、表は金地に赤、裏は赤地に金である。
長さ33㎝、日の丸の直径15㎝

 

⑭ 扇子 黒い入れ物の中に画が入っている。2つの部分に分かれ、ケースには魚の画が、内部の折りたたんだもの裏表、上は草花、下は男女が踊っている様子。不思議なものであり、上の幅8㎝、長さ30㎝、画が描かれた扇子の部分は長さ15㎝

⑮ 合当理(がったり) 旗指しもの容器 甲冑の背中に付ける断面が正方形の棒であるが、内部が直径2㎝の穴になっている。長さ38㎝、上部3x3㎝、上の金具は真鍮製、漆仕上げ。

⑯ 横笛を入れた容器 筒で長さ42㎝、直径3㎝、蓋の部分の長さ9㎝ 材料は木か竹だが上質なものである。下に穴が開いており、漆仕上げ。中はないが鉄笛を
戦場に持って行ったと言う、その容器か。

⑰ 采配(さいはい) 号令を出す時に振るもの、日本独特の戦国期からの伝統だ。命令を下すものを「采配をとる」と言うくらい。柄の部分、長さ34㎝、太さ2㎝、先が尖っている。紙の部分の長さは30㎝、約200枚がついており、元は糸できつく巻いてある。柄には皮で同じ模様が入れられている。

形式は異なるが同じ采配であろう。

⑱ 旗 その1 高さ70㎝、幅36㎝、絹製で角が皮で補強してある。下が青、上が白

⑲ 旗か風呂敷 その2 高さ48㎝、幅43㎝、絹製の小型の旗で藤巴紋。玉抜けの穴がある。

⑳ 旗 その3 高さ75㎝、幅37㎝、綺麗な垣色、桔梗紋、糸の筋がいれてある。

㉑ 旗 その4 大型で高さ103㎝、幅73㎝、上が青、下が赤、全体に糸目を入れ補強してある。羽根の模様。

 

㉒ 旗 その5 下の白字の旗は縦87㎝、横21㎝あり、絹製だ。同じものが2枚ある。

㉓ 旗 その6 白と黒の小型のもの。縦23cm、横37㎝ (上)

㉔ 白布 4本同じものがある。55㎝x14㎝ 絹製

㉕ 白布 風呂敷か被りものか、結び目が解けない。約60㎝角。

㉖ 赤白の旗 43㎝x36㎝ 木綿製 2枚同じものがある。

㉗ 合印 肩に付けた小さな旗 戦国期からあり、日本独特の目印で、戊辰戦争でも使われた。6種類あり、藤紋のものは32㎝の長さ、幅16㎝で色のバランスも良い。
その他に5種類の合印が用意されており、様々な状況で使ったようだ。端の白と黒のものは染めではなく、2種類の布を合わせて作ったもの。

㉘ 床几 携帯用で、座る部分は厚い3角形の牛皮、一辺は33㎝、その端が袋杖になっており、折りたためる長さ50㎝の脚を交差して開き載せる。甲冑を装着したまま座るものであろう。

床几、写真の物は洋式であったかもしれない。

㉙ 陣羽織 袖なしで、丈は95㎝、肩幅60㎝、材質はラシャに見える。家紋が異なるのでこの甲冑のものではないであろう。

(以上)