5 、槍・薙刀

槍が戦国時代までの重要な武器であったことは間違いがない。鉄砲出現後は弓と並び補助的な武器になったが、武士の象徴であり、槍の鞘がその家を示した。槍には大きく分けて穂(刃)が真っ直ぐな素槍、と鎌が出ている鎌穂槍の2種がある。
また長さにより長槍と短槍に分けられるが柄の長さは様々である。一般的に集団戦闘では長い槍が、室内や動きを重んじる個人戦闘では短い槍が、という用途により多種のものが存在していたのであろう。穂の中心(なかご)は断面がほぼ正方形先細りなものが多く孔がかがられており、柄から目釘を入れて固定する。なぜか「下坂」銘が多い。槍穂は穂先及び刃の部分に焼きが入れられており、良く砥いだものは刃紋が見える。

長槍

戦闘でも行列でも長い柄の槍は必需品であった。長い槍でもその穂は短いものが多く、長い穂は大身と呼ばれていた。大身の穂は60cm以上、概ねその長さは4m半から6m半くらいもあった。しかし現存する長い槍は少ない。長槍でも穂がとても短いもの もある対人用の武器であればその穂先は15cmあれば充分で、このくらいの長さで断面が三角なものが多い。穂先には長めな鞘が付 いており、全体の調和を考えてある。柄は良質な樫で、表面は良く磨いてある。末の方が太く、先には石突と言う厚い鉄製の被い が付く。 柄の先端の穂が入る周囲は紐で巻かれ漆で固めてあり、先端には金属の環が入る。長い槍は武家の行列の先頭を飾り、その意匠を衒った鞘が武家の家柄を象徴した。
戦国時代の戦闘用の槍には身分の高い侍のものと、足軽用の数ものとが存在した。

鎌槍

一般的なものが十文字槍で、これは薄い刃物状の穂である。長さも様々であるが概して大きくはない。また柄の長さも適度 なものであるようだ。個人戦用であったろう。
穂先にはいろんな形が存在しているが、多くは両側に刃が付いており、押しても引いても切れるようになっている。

短槍

室内の護身用などに使用されたと言う。柄は太く、短い穂が付いている。現存する槍にはこの種類のものが多い。穂は 10cmくらいの短いものが多い。

長槍2本

長槍2本

長槍2本

上の十文字槍は全長(鞘も入れ)210cm、下のものは230cm。柄はいずれも上質の樫を手の滑りのため、良く磨いてある。柄の断面は円形である。

長物4種の穂と刃

長物4種の穂と刃

長物4種の穂と刃

左から十文字槍の穂(22x16cm)とその鞘。長い槍の穂(15cm)とその長い鞘。薙刀の刃(38cm)と鞘、内部は木製でそれに皮革製の被いが付く。左は長い槍とその穂(29cm)と 槍印。槍印は皮革製で家紋を入れ、槍の首に付け、所属を示した。

薙刀

薙刀

薙刀

全長は210cm。江戸時代は女性用の武器であったと言われている。柄は樫で、断面は刀の柄と同じような楕円形である。薙刀の刃は先端が両刃になっており、先端で引っかけて、刃の背でも切ることが出来る。 従って単に刀剣に柄を付けたものではなく、その用法には独特のものがあったはずだ。刃と反対側の柄先端の石突きも鋭い。

 

槍・薙刀

槍・薙刀・杖(じょう)など長ものの武器は屋敷玄関のなげしに掛けられていたのが一般的だった。
訪問客からは見えないが、「いざ」と言う時には取り外し、直ぐに表に出るため
であった。

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① 槍の種類
素槍 (現在の文章)
長槍 (現在の文章)
鎌槍 (現在の文章)
短槍 (現在の文章)

② 槍
イ、 素槍
普通の槍のことである。鞘の形も柄も刃も大体が同じ寸法であり、柄は樫を良く磨いてある。このものは石突(刃と反対側の立てた際、地面に突く金属部)の縁が出ており、手が柄から外れない工夫もある。穂は14.5㎝と短く、重量的には前後のバランスはとれており、全長は約180cm。
なおこの石突は流派によっては柄に輪をはめて繰り出す、戻す速度を上げるために使用したものかもしれない。輪は欠落したが。

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恐らくこの方式の槍が一般的なものであり、穂が短いから人体に対し突きだけで効果は十分ある。(現在のナイフ75㎜規制を考えても、10cm突き刺されば致命に至る)
刃は二等辺三角形をなしており、裏側は平らで樋が掘られ、朱漆が塗られていた。突く武器としては折れては役に立たないので、このように製作したのであろう。銘は『越前豊原丹後大掾藤原重常』古刀時代のものだ。
柄の巻きの作りをみても上作である。

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焼刃がみえる

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底側

この武器は集団で使うもので、槍を立てる、水平にする、前進する、号令で動かされた種類の武器だろう。会津藩調練の画を観ても30名が一列になっていた。「槍襖」を立てるなどの言葉はこのような使いかたから生まれたのだろう。
この種の槍の攻撃は突くだけでなく、叩くことも有効であった。

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鞘は木製を布ではってあり、先端は金属を被せてある。

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ロ、 大身槍

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戦国時代、大身の槍は刃長60㎝を規準にして全長は5-6mあったと言う。
この槍はその規準から言えば、刃長は30㎝で柄長は330㎝で鞘を付けた状態では4mに達するもので、現在、家から簡単に持ち出すことは出来ない。
古刀時代のものであろう。銘は『兼行』

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鞘は長い木鞘で合わせて製作したシンプルなデザインである。大名行列などに
持ち出すときはこの鞘の上にその家が分かる飾りを被せた。

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身分の高い個人武器で馬上使用したことは想像出来る。

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底側

恐らく騎乗の対決に使用されたのはこのような槍であったであろう。
穂は素槍の穂と異なり、先にいくほど膨らみをもっている二等辺三角形である。
下部は25㎜、高さ8㎜で折れにくい。
底に17㎝に渡り幅8mmの樋が掘られ、赤い漆の残りが見える。
何よりも焼きが深く、刃紋が綺麗に見える。

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焼刃が見える

石突の真ん中に横に木製の棒が入っているがこれも手が柄から滑り落ちない工夫であろう。柄も綺麗に磨かれている。この種の槍は突くだけでなく、払うという攻撃法があったから頑丈に作られていたのであろう。

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③十文字槍
非常に古い時代のものと推定される。状態は良い。刃は長さ22㎝、幅16㎝、
左右、裏表対照に出来たものだ。刃が6面全てについている。従って、槍として突くだけでなく、払う、引く、ひねる攻撃出来るだけでなく、防御に於いても相手の武器を止める、払う、ひねることが出来た。

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柄も枯れてはいるが、手の掛った作りであり、長さは180cmほどある。先の方には弓のように蔓が巻かれ、金属の輪が3つ入った、頑丈な造りである。

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鞘は木製の十字型であるが、後ろが全面開いている。刀槍、全ての武器に言えることだが、直ぐに使用できる状態で、しかも刃が安全に守られる鞘の工夫があった。

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このような鎌槍には流派があり、相当なる修練を行わなければ実戦には役にたつものではなかろう。また刃の研ぎや手入れも手間がかかる。
このような槍は武芸に自信があり、更に身分の高い武士の所有であっただろう。
石突は丸く、柔らかい感じがするが、これで突かれると大きな打撃となる。

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石突

④薙刀
(現在の全体写真はそのまま倍に拡大してください)

薙刀は古い時代は長巻きと呼ばれ、刃が非常に長いものだった。多くは、刀に
作りかえられた。

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戦国・江戸期には女性の武器であったと言われている。
全長210㎝、刃長38㎝、反り2.3㎝、無銘
この薙刀は時代的にそう古いものではない。幕末新新刀時代のものだろう。
柄は樫であり、断面は刀の柄のように楕円形をしている。

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薙刀の刃は反りがあるが先端が両刃になっており、引っ掛けて刃の背でも切ることが出来るのがこの武器の特徴である。反りが大きいので突きを目的としたものでなく、長い柄を利用し大きなモーメントを生み、刀や槍に対抗した。

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従って単に刀剣に長い柄を付けたものではなく、柄の反対側の石突も鋭い。

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使用法は独特のものがあったのであろう。
鞘は木製漆塗りのものに皮革の被いが付けられている。

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(この項以上)