30 .ミサイル兵器(誘導弾)
第二次世界大戦末期、第三帝国のV-I,V-IIがミサイルの嚆矢であるが、誘導装置は付属していなかった。V=IIは米国、ソ連に持ち帰られ、この両国の標準装備兵器でもあった。日本帝国の晴嵐、桜花なども潜水艦発射、空対空ミサイルの
アイデアを与えた。第二次大戦では対戦車ロケット砲が使用され、それらも
分類では誘導装置はないがロケット兵器としてミサイルに分類されよう。
すでに大砲の時代は終わった、誘導兵器の時代だと言われて久しい。誘導兵器は何らかの誘導装置により索敵した目標に向かい自ら飛んで行き命中、中に仕込まれた爆薬(核の場合もある)が炸裂し相手を破壊するための兵器である。
(爆薬が仕込まれている部分は先端であり、それを「弾頭」と呼ぶ人もいるが
軍用用語では「弾頭」とは弾丸先端形状を表すための部分呼称である。伊藤愼吉氏)
さて、ミサイル(誘導兵器)は目的や、その動力、誘導操作、燃料、サイズにより多種である。日本が安全保障のために使用されるものは限られているとは言え、それでもかなりの種類が用意されている。
① 動力 ロケットかエンジンか、もしくは両方か 巡航遠距離ミサイルなど
② 燃料 個体か液体か、もしくは両方か ほとんどが個体
③ 誘導 レーダーを使い索敵し遠隔操作するか(無線、有線)もしくは赤外線などに自律的に操作されるものやGPS,衛星をつかうかなど
④ 目標 イ、対地 戦車や火砲などに
ロ、対艦艇・対潜水艦
ハ、対空 もしくは空対空
ニ、対ミサイル誘導兵器
日本の安全保障上必要なミサイルは、①対ミサイル、②対艦艇、③対空などである。いずれも索敵用のレーダー、目標まで誘導するシステムなど電子的な機材、運用の技が必要である。固定したものは相手の目標になるので、ほとんどが移動式であり、潜水艦から発射する巡航ミサイルが究極のものと言えよう。(日本は装備してない)イージス艦は通常の駆逐艦クラスの護衛艦の中央部に大陸間巡航ミサイルを成層圏で迎撃する防空ミサイルを搭載しており、日本の成功率は米国のそれと等しいそうだ。
国産ミサイルも何種か開発されているが、現在は主に米国制ミサイルをライセンスしている。国産99式空対空アクティブレーダーホ-ミング、射程100㎞、全長370㎝
日本の誘導弾装備の問題は訓練が国内ではほとんど実施できない点だ。
スティンガーミサイル(地対空、個人操作)の訓練を見学したが、大型スクリーンを使用するシュミレーターだった。
スティンガーミサイルの訓練風景
現在日本で使われている2種類の主要ミサイル
主に対艦と対空に分かれる。先日の西部方面隊研修で見学したのは、88式地対艦ミサイルシステムと、03式地対空ミサイルシステムの2種類の装備品であった。恐らく近日のうちに新しい形式のもの、例えば対空においては航空機より
高速なミサイルに対抗するミサイルPAC3のようなものが一般的になるだおう。
10-1、88式地対艦ミサイルシステム
沿岸砲台と異なり、車両によりレーダー、中継装置、誘導管理装置、電源、ミサイル本体が各所に移動できる。現在は西部方面に多くが配備されていると推定されるが。
ミサイル本体は03式地対空ミサイルと同じサイズ、全長5m、直径35㎝、重量660㎏であり、箱に入れられている。一台の74式大型トラックには6個が二重になり搭載される。射程は4-50km、日本には500発程度が装備されていると推定する。
このような形でシステムは展開されるが目立たない
地上レーダーは4-50㎞が限度なので、ヘリなどに搭載された探知レーダーと
複合して使用される。
発射角度に調整した状態
10-2、03式地対空ミサイルシステム
発射台に搭載する必要があるが、発射場所を車両により移動する。自走はしない。原形は古く、1950年代アメリカで開発されたHAWKミサイルで、それを
もとに純国産化したものだ。地上から向かってくる航空機を迎撃するもので、
再改良しているが、レーダーや誘導装置など電子部分が時代遅れの間はある。
現在、次世代の短SAM,巡SAMに置き換えられるだろう。
目標を補足し、追随するは別にあり、大型電源車を使う。発射後、セミアクティブレーダー誘導システムでミサイルを目標に正確に当てる自信はあるそうだ。
全長5m、直径35㎝、重量650㎏、射程3-40㎞はあるのではないか。また
一部隊に必要な人員は12-5名と推測される。
フォークリフトから発射台に搭載された状態
電源車
10-3、地対艦短SAMミサイル改
11式短距離誘導弾は純日本製である。
基地記念祭の際に短時間だけ遠方に現れた。新しい短SAMだと
感じたが確信はない。短SAMは地上から何キロか離れた海上の敵艦艇を攻撃するミサイルだ。海面に近くを飛んでいく。2トントラックに搭載されるが、
機動車も一緒に走っていた。誘導装置が搭載されているのだろう。
アクティブレーダーホ-ミングを使うが、光ケーブルを使うと言う話もある。
この手の兵器は日本では演習出来ないのであろうか。見てみたいが。
富士火器演習でも装薬を相当減らしていると言うし。
これは81式であろうか?
10-4、91式携帯地対空誘導弾(スティンガーミサイル)の訓練
米軍の発射の瞬間
この駐屯地には2回行き、2回訓練を経験した。劇場スタイルの訓練場で
恐らく射程は10㎞くらいある個人携帯ミサイルのシュミレーターである。
設定は2種類あり、ひとつは空港、もうひとつは山の中である。空港警備などに重要な兵器であることが理解できる。実際に模型航空機などを使い、演習地で発射できないから、このような訓練場を設定した。
まずは説明を聴く。スティンガーは1980年代に開発されソ連が侵攻したアフガンに秘密裏に供与されたことで有名だ。一発2000万円くらいの価格だ。
富士を背に大胆不敵な敵機
まずは音で敵航空機接近を聴く。その時に敵味方識別を行うのだろう。
発射の手順は4つある。電池を稼働させる、赤外線システムを入れる、安全装置を解除する、発射の引き金を引くだ。右へ、左へ、前に、そして最後に後ろに引くと言う手順だが。
敵機を目視しなければならない。黒点として現れる。
引き金を引くと、ブースターにより(筒は後ろがふさがれているので)ミサイル本体は10mくらい飛びだすそうだ。それから自体のロケットモーターが掛り
飛んで行くそうだ。私が自分で何回かやらせてもらったが、回転翼機にはOKだった。命中、ドーンと空で音がする。しかし、F-15 は頭上を飛び越えて行った。
諸元
直径 | 全長 | 幅 | 重量 | 全重量 | 有効射程 | 速度 |
7㎝ | 150㎝ | 9㎝ | 5.7 kg | 16kg | 4000m | マッハ2.2 |
ロケットを装填した場合の全重量16kgが問題だ。重心が肩に掛っている
訳でないので、ふらふらする。相手を目視して引き金を引かねばならず、
その瞬間が問題なのだ。情けなや。
10-5 110㎜個人携帯対戦車弾
独逸兵器のライセンス生産だ。イラク戦争のとき米軍が同じような兵器「ドラゴン」で建物を目標に使用した映像を見た。飛翔部分はこの形式より二廻りくらい大きなものだ。果たして、一度地面に当たりそのまま滑るように飛んで行き建物を木端微塵にしたシーンだった。これは戦車、建物、両用になる。全長120㎝、重量13㎏、飛翔部分は3.8kgと言うからかなり威力ある兵器だ。飛翔距離は数百mと推定される。
似たものに84㎜無反動砲がある。
陸自では普通科連隊の分隊兵器であり、筒の部分は使い捨てである。
照準眼鏡、暗視眼鏡などあるが、ここまで戦車に肉薄するのは勇気がいる。
実射の画像は平成26年富士総合火力演習の際に撮影。