12、 近代の砲弾と信菅

①九四式37㎜砲(機関砲)弾

程度の良い見本だが、肝心のどのような砲、もしくは機関砲に使用されたものかは不明だ。知識のある方がいたら教えてほしい。
諸元:全長260mm、砲弾部130mm、口径35mm(銅環部37mm)縁50mm

底部信管式である。雷管、起爆薬、発射薬、底部信管、砲弾起爆薬、装薬の類はすべて除去されている無可動弾だ。

砲弾の部品は全て残っており、特に底部信管の仕組みはワッシャーもあるので
かなり良く研究できる素材だ。
真鍮薬莢は再使用を意図している。「九四砲」と記され、底部には昭十七年と検印、検印。雷管が三つ環で外せるようになっているので、再利用と推定できる。底部は起縁で直径50mm。

底部信管にも昭十七 ヤの検印 二つ穴で回して絞める。
砲弾には白帯(徹甲弾)で、一部赤色が塗られて起動すると言う意味だ。
この砲弾、一発製造するのにどのくらいのコストがかかるのであろうか。
昭和17年には日本の国庫は破綻していた。恐らくGDPの80%は戦費に
使われていただろう。生産数にもよるが現在の金額に換算し2万円は下らない。
底部信管と言うところが珍しいがこれは徹甲弾の特徴で、車両や構造物を破壊するのに使用したからだ。
35mm弾は現在でもエリコン機関砲に使われ、米国の退役しそうでしてないA-10攻撃機に搭載され、その威力は1発で大きなビルのひと部屋を完全に破壊する、重量級貨物車を粉みじんにすると言う。

 

②81㎜迫撃(曲射)砲弾

状態は良く、表に「一〇〇式九七曲歩」と裏に「☩」の白書きあり。
全長360㎜、直径80㎜、赤首で黄帯。

信管は「八八式野山砲」昭十五、安全栓を抜く針金も起爆筒も健在だが、
中身はなく無可動である。

典型的衝撃信管で真ん中の銅の筒が起爆薬である。
翼は6枚、全長70㎜(外部60㎜)現在は空なので重量は不明だが3-4kgはする。


発射薬はこの6枚の羽の間に各々はさみ、真ん中には砲身を落とす衝撃を(撃針は砲身の底にある、不発の際はやっかいな仕組みだが)
利用して発火させる雷管が付いていた。羽に角度が付いているので、砲弾は
自転しながら目標を目指す。

81㎜曲射砲は世界の一般的基準の砲で、帝国陸軍では昭和14年に九七式曲射歩兵砲として制定、歩兵大隊に装備した。口径81㎜で砲長130㎝、重量約70㎏、最大射程は2800m、45-80度に砲の角度を変えることで射程を調整した。
使用砲弾は九七式榴弾、それとこの一〇〇式榴弾であった。
運搬、操作、運用には20人くらいの人員を要したであろう。

 

③帝国海軍25㎜対空機銃弾

諸元は全長250mm、砲弾100mm、信管が欠けている。小さな衝撃信管が
付いていた。

この砲弾は信管を付ける前の状態で信管部分にはベークライトの蓋がしてあった。砲弾には各種あったが、これは通常炸裂弾で、先に衝撃信管が付いた。
海軍艦艇、地上施設の防備には対空25mm砲を使った。ホチキス方式で最初はホチキスのライセンスで13.2mmであったものを拡大した。戦争が激しくなると帝国海軍艦艇はドックに入るたびに空いている場所に単、二連、三連の箱型弾倉をつかうどう機銃をどんどん搭載した。戦艦大和は最終的には100の25mm機銃を装備していたと言う。この弾薬はなかなか珍しく、上に信管が付く。
一発でも命中すると単発機は撃墜という威力だった。箱型弾倉装着担当は普段は炊事などをしていた水兵だったそうだ。3連装機銃には最低でも10名の要員が必要であった。
九六式25mm高角機銃は昭和10年制定で約33000門が生産された。
3連は艦艇に搭載され重量250㎏、ガス圧利用、電動で稼働し、有効射程距離は
3000mと優れた性能だった。


地上で使用していた単身型。

 

④帝国海軍砲弾の保管

帝国海軍の砲弾はかなり慎重に保存、運搬、携帯された。暴発すると艦の命に係わるからだ。
ふたつの例で説明する。
イ、 信管の収納缶 八八式信管改

ブリキ缶の蓋紙から分かる内容は、呉工廠製で、信管だけを収納するものだ。
外部には「注意 実用或いは検査外開封スベカラズ」とある。
内部は完全ではないが、このブリキの缶詰状のものが信管入れだ。

諸元:全長418mm、外直径75mm、内部直径62㎜、外部直系75mm、砲弾部40m㎜
ブリキ缶の内部は2段になっており、残念ながら最先端の信管頭部しかない。
この頭部は木製の台に支えられて、さらにその真鍮の中には直径35mm、長さ80mmの木棒が挿入されており、「石田」の検印がある。頭部が損傷しないような丁寧な装填だ。
蓋と本体ははんだづけされており、蓋の表書きには種目○○(消えて読めない)、火薬
昭和13年〇月、信管昭和17年1月、呉工廠と記されている。

紙筒が三段の頭の部分だけだが、その下に時限式の信管が装着されていたと考えられる。
これだけではどんな砲弾だったかはわからないが、信管の底部直径が75mmもあると言うことはそうとうに大きな砲弾用の信管収納缶であっただろう。

信管頭部ねじ山からしてもかなりのものだ
砲弾には戦闘の直前に艦艇同士か艦砲射撃かいずれかを判断して取り付けたのであろう。

ロ、 砲弾収容筒

形態からみて帝国海軍の軽砲のものであろう。紙筒を漆塗りしてある。
内部は3段の厚い紙筒で、先に行くに従い、信管、砲弾、薬莢という構成である。

諸元:全長418mm、外形75㎜、内径62mm、信管内径40mm

厚紙製でかなり頑丈だ。

帝国海軍では艦艇内での砲弾や信管の暴発は命とりになるのでかなり神経質な
扱いをしていたようだ。
砲弾の種類が判明すれば追記したい。

⑤91mm中迫撃砲砲弾

諸元:全長470㎜、信管部72mm、吊り輪あり

羽6枚元長90㎜、羽長70mm
信管:八八式野山砲 昭十八 起爆筒欠
迫力のある大型砲弾である。赤首、黄色帯

米国にいたころ、コネカットのガレージセールで購入した。祖父が陸軍将軍の家だった。長い間、暖炉の上に置いてあったそうだった。

 

⑥海軍13.2mm機銃砲弾

この品は鋼芯弾であろう。鋼に被甲してある。刻印はなにもない。

諸元:全長144㎜、弾丸長60㎜、薬莢長98㎜、半起縁19㎜、
ケースと砲弾は3個の凹みで固定してある。
米軍の12.7㎜とケースはほとんど同じで口径が0.5㎜大きいだけ。
大戦中、米軍は鹵獲した13.2mm砲弾を50口径の砲弾切れの機銃に使用したが順調に発射できたそうだ。乱暴な使い方だが、砲腔が減っていたのであろう。


上12.7㎜
ちなみに米軍の12.7mmは現在でも日本を始め各国で使用されている。
この砲弾はホチキスから輸入した九三式対空機銃で、それをのちに
25mmに拡大した。ガス圧利用である。

 

⑦帝国陸軍軟鉄の小銃、機関銃弾

いずれも先の大戦の後期、昭和19年(1944年)の後半からだ。金属材料として真鍮は
合金なので、鉄より先に欠乏してきた。鉄と同じく真鍮も多くの兵器の材料に使われた。
先の大戦においての日本的国のあらゆる角度から物資欠乏は生半可なものでなく、よく国民がこれに耐えたものだ。
いずれも帝国陸軍の7.7mm弾で鉄は軟鉄で銃を痛めるものではなかったようだ。このような例はドイツやソ連の弾丸にも見られたから柔らかい鉄は十分に使い捨ての弾薬などには
耐えうるものであったのだろう。
下から

イ、鉄弾丸に鉄の薬莢
ロ、普通の被甲弾丸に鉄の薬莢
ハ、鉄の弾丸に真鍮の薬莢

コレクターズアイテムで普通に見るものではない。

 

⑧帝国海軍の7.7mm機銃弾

何度も書いたが、帝国陸軍と帝国海軍は別な組織で各々兵器開発をしたから同じ航空機胴体機銃に使用する7.7mm弾も互換性はなかった。陸軍は小銃、軽機関銃、重機関銃、車載機関銃、航空機搭載機関銃、弾種はいろいろあったが、一応は共通であった。
ところが帝国海軍は以下のようなビッカース弾を使用していた。起縁なので、半起縁の陸軍弾丸を見慣れるとおかしな感じだ。薬莢の首に2個の凹を打ち、弾丸を止めてある。
諸元:全長84mm、弾丸長32㎜、薬莢長55mm、起縁直径12mm。
鋼芯弾で被甲の内部には鋼鉄が鉛の替わりに入っている。

上は13.2mm弾、半起縁である。13.2㎜は3個の凹で弾丸を抑えている。

 

⑨帝国海軍胴体機銃ベルトリンク弾薬

機関銃は初期には厚い布製の帯の間に弾薬を挟んで使用した。弾倉にはいろいろある。だが航空機には以下のような金属製のベルトリンクと呼ばれる鉄製環で繋いで使用した。
他国には地上ようや現在でもこの方式は主流である。
これは帝国海軍のベルトリンク3個と7.7㎜の空薬莢3個である。一旦環に入るとそれを
後ろに引き抜くには相当なる力がいる。機関銃のガス圧を使った排夾子でいったん環から
取り出し、薬室に装填した。1秒に何発も行うのだから大変な作業だし、Gのかかる航空機での安定性は驚くべき技術と工作だと思う。

上の2個は下が定位置に入った状態、上が半分抜け出た状態、いずれも帝国海軍のもの。

 

⑩空対空クラスター爆弾

帝国陸軍のものであろう。B-29を迎撃するための兵器だと思う。博物館においてしか
みたことがなかったが、マニオンに出た。戦闘機に束になったこのような爆弾を搭載し、
B-29進行方向上方から投下する。投下した瞬間に広がるから、そのうちのひとつでもふたつでも当たれば被害を与えるのが目的だ。この種の爆弾は最近までアフガンなどでソ連軍により使われたから、当時としては新しいアイデアであったことは間違いない。
造りは雑だ。

諸元:全長260㎜、砲弾部110㎜、信管部(アルミ製)85mmうち30mmが起爆部。
プロペラ3枚直径15mm。砲弾部黄色帯
後部の翌はブリキ製で半分が6角、後ろが3角であり、内部に補強がある。
弾頭の黒い部分がよく理解できない。柔らかいゴムかもしれない。衝突した目標に瞬時に跳ね返されないためか。信管はプロペラが目標に衝突して止まった瞬間に破裂する。魚雷などに使われていたから、海軍のアイデアだが。衝撃でも、時限でも、曵火でもない。
昭19・5「ウ」の文字。炸裂部は鉄だが、手榴弾程度の威力しかないと思う。
弾頭が凹んでいるので、不発して地上に落ちたものかもしれない。プロペラは一枚欠けている。
(この項以上)