1-1 、九二式電話機その1
九二式電話機は昭和7年(1932年)に制定された日本陸軍の野戦電話機である。2年後に制定された無線の九四式と並んで日本陸軍の主たる通信器具であった。
当時の世界の電話機に比べてその品質の高さは際立っており、戦場で使うものとしては過剰なくらいであった。箱型で重い。
電鍵釦
機能としては、有線通話、主送受話器と副送話器、電鍵釦によるモールス通信である。1・5Vの平角四号という大型の乾電池2個を使う。
当時の電話機は現在の方式と基本的に異なり強い磁石を使うので、重いものであった。寸法的には横幅27㎝x奥行き11㎝x高さ18㎝の四角な箱であるが
重量は4㎏あった。皮革製の鞄に入れて運搬、そのまま使用した。
材料は下の部分が木製、上はアルミの蓋になっている。開口部は上部の蓋を開けると送受話器と副送話器、そして側板の穴に差し込んで相手を呼び出すために回す柄(ハンドル)が入っている。相手からの呼び出しは内部の鈴(ベル)が鳴り、上部板の網目からリンリンと聞こえてくる。
予備部品入れと部品
前面の板が開き、2個の電池、小型スパナ、小型ドライバー(線の接続のためにつかう)予備部品が収納されている。
工具、スパナは8㎜と6㎜
送受話器は、長さ20㎝x直径6㎝x厚さ3.5㎝、副送話機は直径6㎝x厚さ2㎝である。信号を受け、音化する部分は一つだけで、伝声管的に話す形式である。従って副送話機は聴くだけの機能しかない。送受話器の握りの部分で聴く時は物理的に外部の音を遮蔽した。
全面を開けた状態
電池は「平角四号乾電池」1・5ⅴ、乾一三号、7x9x4cm、300gくらいの大型電池だ。この電池の固定方法にも工夫があり、ずれないようなとても凝った仕組みだ。また電池は直列で、電池同士の接続ケーブルは必ず予備部品にある。
その他に予備部品にはセルロイド製の振動板で、それらは丸い金属の缶に入っていた。受話器内部がそのままが入っていた例もあった。
左避雷管と右部品入れ
戦場で使う電話機、戦闘による消耗を考えると過剰品質の感は否めない。
日本電気、安立電気や各社で同じ規格で製造された。
日本電気製は昭和16年、安立電気製は昭和18年、製造番号がやたらに大きな数字だが実際の製造数は電話機の品質からするとこれらの会社でも万の単位製造するのがやっとだったのではない。
電話機は無線機より信頼できる通信器具をして前線を始め、後方でも頻繁に使用されたはずだが、その実態はあまり明らかでない。どの程度の単位で装備したかなど。またこの高品質な電話機が兵器生産に制限が出た頃、昭和19年にはこのままで製造できた余裕はなかった。
以上 つづく