新発見 4:革帯の真贋

複製品市場で一番作り易く、また作り難いものが、「革帯」であると思う。まず言葉の問題から、「革帯」か「帯革」かと言う議論があろう。聴い ていると、「帯革」(タイカク)呼ぶ人が殆どである。私は反対の「革帯」(カクタイ)であったろうと推察する。
その理由は、明治の前後、洋式の軍装を採用し出した頃、布の帯と比較するため、「革」を付け「かわおび」と言い始めたのではないか。同じよ うに「かわくつ」「かわてぶくろ」「かわかばん」と言う。だから語源は「かわおび」でそれを訓読みせず音読みして「かくたい」としたとみてる。また九九式小銃属品の表に図と共に縦書きで「革帯」とはっきり書かれている。従って「革帯」が正式であることに間違いない。これを反対に言う 言い方は、多分軍隊内部で兵士達が隠語的に逆言葉として使い始めてで、この言い方も一般的であったと思う。昔ある方に「どっちが正しい のですか。」と聞いたところ、「どちらでもいいんですよ。」という答えが帰ってきた。
さてこの革帯だが、工廠刻印・製作年の入っている実物、「昭十四」、名古屋印があり、長さ103センチ、幅44ミリ、厚さ5ミリ、重量220グラム、穴12個、金具(びじょう・バックル)は真鍮製でその太さ5ミリ。当時の各国の同じものに比較してまったく遜色の無い品質である。びじょう革は一個で裏が二重に合わせて縫い合わされている。穴の間隔は60センチから93センチまで。現存するものは殆どがこれと同じ仕様である。しかし多くは革の色が黒ずんでおり、元のままの赤茶色の柔らかいものはあまりない。それどころか、革帯はいろんな装具の中で一番まともなものが残っていない装具であることに間違いない。従って、戦後数多くの複製品が作られた。中田忠夫さんのお話でも最初の複製品は30年くらい以前に日本製を、最近は中国製をと言っておられるが、最初にどうして、どのようなものを製作したか覚えてないとのこと。アメリカでも実物の金具を利用し個人が自作したものがたまに見られる。もっとも昭和13年頃までの日本の皮革装具はアメリカ産原皮を使用していたので材料的には問題ないが。これらは寸法的にも実物に合わせてある。最近は沖縄基地の工事現場で発見された多量の実物金具を持ってきて製作した複製品の広告も見た。浅草フキヤのものは皮革に色が付いてないが、金具にニッケルメッキしてあり、金具の太さは爪以外良い。 価格は3000円。日本の複製品はなぜか先の実物より長く108から115センチあり、それらのびじょう革が二重合わせでない。また複製品は帯の先端の革の落とし方が違う、金具特に、爪が細い。また皮革の品質から見ると、はるかに実物に及ばず厚さもない。これは皮革のなめし加工の差で、価格的にも実物は現在の3000円以上は掛かっていたと推定する。従って実物に比べると複製品がいまひとつであることは否めない。複製品の穴の数はすべてが12個だがこの穴の数と長さに関してフキヤのおやじさんも最初になぜこのように製作したか知らないとの こと。
一番短くした状態、腰回り60センチというのはどのような兵士であっただろうか。 被服では身長157.6センチ以下の6号、靴の寸法で22.8センチの一番小柄な兵士としても細すぎる。ちなみにこの一番小さい寸法の装具の整備標準率は0.5%だった。

ここで疑問ひとつ。長さ、太さ、厚さ、皮革の品質、金具(びじょう)の太さすべてクリアにしていて、これは確実に実物であると確信するが、穴が7個しか無いものがある。びじょう革の合わせが二重でなく、金具は真鍮にメッキしてある。これは複製品か、実物でこのようなものも存在し たのか。これに答えてくれる方がおられたら教えて下さい。
このものの寸法は長さ103センチ、幅43ミリ、厚さ5ミリ、重量195グラム。穴の間隔は75センチから96センチ。外国のものなら最長が96センチということはない。また刻印類はみられない。20年前にアメリカのガンショーで手に入れた。同じ仕様の、様々な程度のものを少なくとも3点は見たことがあるのだが。

ちなみにゴム引きキャンバスの製品は、ゴムが外側にくるものとキャンバスが外側にくるもの2種類が、他の装具と同じように見られる。これらは長さが110センチ、幅42ミリ、厚さ5ミリ、重量は300グラム内外で穴が14個ある。穴の間隔は75センチから104センチ。びじょう金具は皮革製のものは真鍮と鉄であるが、ゴム引きキャンバスは鉄を黒く塗った太さ5ミリのものしか見ない。この素材の帯はアメリカで俗に「ジャングルベルト」と呼ばれ、その素材の質の評価は高い。兵士は南方では軽装になり、短いものでよさそうだがこのような長い寸法にしたのはなぜだろう。私はインド系などの大柄な兵士にも支給するため、と推察している。工廠関係の書類ではこれらを製作した会社と見られるのは日本タイヤ、横浜ゴム、東海ゴム、国華工業など。
ゴム引きキャンバスの製品は程度の良いものが少ない。日米複製品業界の次の課題はこの種の製品であることに間違いない。

もう一つの疑問。このゴム引きキャンバス製品の110センチ、穴14個の皮革製の帯は存在したのでしょうか。確かに防寒具の上からに装着するには103センチは短いとも、考えられるのですが。 同じく、九九式小銃取り扱いの図にある「革帯」の寸法は、「巾十八(不明)、厚三粍、 長一米三十糎、穴数十二」とあり、しかもこの図のびじょう革は2個ある。このような革帯をまた見たことがあるでしょうか。長さの130センチは 103センチ(現存する実物の長さ)の間違いかと何度も見るが、「一米三十糎」とある。

お恥ずかしいことに、一番基本的な装具「革帯」ひとつとってもまだまだ知らないことばかりです。