「大砲からみた幕末・明治」 近代化と鋳造技術
中江 秀雄著
法政大学出版局発刊 定価¥3,400-
帯紙に「大砲製造の技術史から近代を読む」とあるが、早稲田大学名誉教授の中江 秀雄氏は銃砲史学会の理事であり、史学会例会の世話役としていなくては困る存在の重要人物だ。彼は「自分は鋳物やと鋳物専門を強調する」しかし私たちに「鉄」と言っても、いろんな鉄があることを機会あるごとに教えてくれた。彼の退任講演を聞いた。そのあとのものすごい「都の西北的飲み会」にも出た。その講演で彼はエッフェル塔の例を出した。エッフェル塔が作られ、19世紀半ばの欧州の鉄鋼の生産量は当時の日本とはくらべものにならず、さらに英国のさまざまな機械や橋に鉄をふんだんに使用した文明に比較して当時の日本の鉄文明の遅れを19世紀最大の兵器、大砲を上げて説明したのがこの本の
内容だと感じた。日本は欧米先進国に100年遅れて産業革命に入るがおよそ
30年間で追いついたと言うのが私の持論だが、中江名誉教授は鉄鋼の生産が近代的になり量的にも追いついたのは昭和の時代になってからと言っていた。
書物概要は以下のごとくである。
1、 はじめに
2、 鉄砲伝来から大砲まで
3、 わが国を取り巻く世界の情勢と大砲。
4、 溶鉱炉からの変遷―甑から反射炉へ
5、 反射炉による鋳鉄砲の製造
6、 わが国の鉄―幕末の銑鉄と鋼
7、 幕末から明治の製鉄所・造船所・軍工廠
8、 明治の製鉄―釜石から八幡へ
9、 江戸時代以前に設立された鋳鉄鋳物工場
10、 明治時代に設立された鋳物工場
11、 おわりに
以上である。
幕末、日本は19世紀最大の兵器、大砲、それを効率的に使用する艦艇が
なかったから、不平等条約のもと開国せざるを得なかった。しかし文化三年
(1863)の薩摩、長州と列強との戦闘でその弱さを実感し、明治維新、そして
立憲君主国と言う新体制での「殖産興業」(産業革命)と「富国強兵」(帝国主義)と国家の方針を急速に転換せざるを得なかった訳だ。だから1から5までの項目より6以降の中江名誉教授の専門研究のほうが数倍魅力のある内容であった。なおこの本は多くの図、絵画、表などビジュアルな利点が大きい。
第二次大戦中、鉄の供出を逃れた、早稲田大学正門の話、早稲田には門はないは、学問の比喩であり、本来は鉄製の門があったそうだ。
(以上)