渡部由輝著「数学者が見た二本松戦争」

並木書房 2011 B5版251ページ

並木書房の奈須田社長は時々お会いする間柄だ。その並木書房から送っていただいた新刊書。しかしこの本は社長の筋ではなく、福島のエス氏の関係で送られてきたものだった。著者は秋田県出身、東大工学部卒、数学教育専門家で、
「数学は暗記科目」「数学はやさしい」「発想力による数学」いずれも原書房刊を執筆されていた。その数学者がマルメガに書き続けてきたテーマ、戊辰戦争の悲劇、会津藩の戦闘の前にあった、二本松藩の西軍との総力戦を描き、なぜそのようなことになったか。東北に純粋に生き残っていた「武士道」、これは老人から、成年、若者、少年にまで共通していた。日本人最後の精髄を尽くした、大義を求めた戦闘の様子を描いたドキュメンタリーだ。
武器兵器に関しても詳しい。黒色火薬成分の差、これは成分と言うより古いものだったかもしれないが、それに小銃の能力。西軍のスナイドル、後装式14・66mm。スペンサー騎銃.56口径、4斤野砲(4kgの榴弾を使う、大きな車輪で移送の楽な)それらの兵站。戦う敵と、太平洋の米軍のようにやり過ごし自滅させる敵を選ぶ戦略性。それらの近代的思想の西軍にかなわぬと知りながら崇高に立ち向かう無勢の『二本松侍集団』。二本松は私の家から近いところだが行ったことはない。また前装銃や銃砲史学会の先輩、好き嫌いはあろうが、安齋實氏の出身地である。茨城北部から福島に掛けての複雑な小藩の存在も良く理解できた。渡部氏の「武士道」にほれこんだ力作。数学者なので、銃や砲を数字化しているが、若干の疑問もある。たかが小銃、スナイドル銃、改造銃だし、が現在価格換算で1000万円、スペンサー騎銃が1500万と言うのはない。せいぜい10分の1だろう。産業革命後、兵器は廉価に造られるようになった。いくら武器商人にぼられてもそんな価格にはならない。以上