この日本的な『十手』というもの
名和 弓雄先生は捕縛、捕り物の専門家であり、「十手術」師範だった。
十手は極めて日本的な武器で昭和初期まで警察官の中には使っていた人がいたそうだ。室町時代から使用され、江戸期には警備の公式な武器となった。10本の手に匹敵するものとこの名がついたそうだ。但し、映画、テレビドラマなどでは時代考証的に間違った人間が間違った使い方をしていたシーンが多いと言われている。
元は与力・同心の武具であったが、上のクラスも、同心の下部、小者にももたせた。
身分により格があったのだろうが、画像のような片鉤の形が一般的だが、形状、大きさは千差万別である。
本来は握りの部分に細紐が巻かれていたのだろう。この実物は、
長さ輪の部分まで丁度30㎝(1尺)だ。太さは先が12㎜で八角、握りは9㎝(3寸)ここは断面が丸で、細い。問題は鉤、この部分で刃物を受けるのだが、平たく、受けが開いていて長さは5㎝。重量はおよそ300g。鍛鉄で、鉄質は良い。鉤は棒に溶接されているのではなく、入れ込まれかしめてある。
名和先生に簡単に使い方を聞いたことがあったが、基本的には打撃武器で、武器をもった相手の手首を打つ。このためのバランスは抜群に良い。先が太く重く、握りはきっちりしている。また非常に小型であり、刃がないので、安全に保持できて自分が怪我する恐れはない。帯に差し、見せびらかすものではなく、袋に入れて保持したと言われている。
鉤は相手の刃物をからめ捕るためのもので、この術まで行くにはかなりの修行が必要だ。
輪に長い紐を付けて投擲することもできる。これは更に上級向けの使用法。
輪は楕円形で軸にうまく付けられており、廻る。外径で3×2㎝くらいの大きさだ。
贋作が大変多い。古い家からでた家具や道具をさまざま出している露天にホンカが出ることがあった。逆に武具を扱う業者のところに贋作が出ることがあった。この実物、程度はよくないが元の形はよく分かる。贋作は鉤の付け方、輪の大きさ、握って振った時のバランスなどで比較的、簡単に判定できるが。
護身用として最適の武器であるが、恐らく正式に公安に尋ねれば、携行はしない方が良い、と言う返事だろう。銃刀法上の問題だ。現在、不審者をあげるには所持品、例えば車にグローブやボールはないのにバットだけ入れてあるは注意を受ける、木刀、カッターは引っかかるからだ。だからこの品もデスクの上の文珍として使っている。