『日本の弾薬1880-1945 1巻・2巻 』
『日本の弾薬1880-1945 1巻・2巻(Japanese Ammunition 1880-1945) 』
(著者Ken Elks, 出版Solo Publication 2009/9/25) 英文
A3判、オールカラー 1巻97p、2巻213p
現在、大日本帝国陸海軍が使用した軍用弾薬に関する詳細な研究は、日本語では出版されていない。
このような状況下で大日本帝国の陸海軍がどのような弾薬を、どの時期にどのような理由で使用していたか、その背景に関しても述べている本書は軍事史を学ぶための基礎的な文献として貴重である。
本書は、米国人はじめ全世界(特に旧日本軍の研究はドイツで盛んだが)の軍事研究者が参考にしており、旧日本軍使用弾薬の完全なリストはこれしかないという事実がある。本書は英文ではあるが、使用弾薬を体系的に掲載しており、大部分を実物大カラー写真としている点で利用者の便宜を図っている。
著者、ケン・エルク氏に関しては個人的なことはあまり知られてないが、英国ケント州に在住する歴史家・蒐集家であり、鉄道などその研究範囲は広く武器兵器のみに限定してはいない。
彼自身が参考にした多くの資料は何であるのか疑問の残るところではある。想像するに、英国のアーカイブ、及び英軍の旧日本軍収集物庫を取材し、体系化した後に解説を加えたものであろう。英軍はアジアで旧日本軍と直接闘い、かつ連合国の重要な位置を占めてもいたので、旧日本軍より鹵獲あるいは残留した弾薬を資料として保存していた可能性が高い。また多くの先人の研究を詳細に分析している。
例えば、明治期の弾薬に関しても興味ある事実が記されている。11mm村田銃実包の存在からこれらを使用するガトリング砲があったと実証している。機関銃開発過程に使われたものと思われる。
本書の構成
本書はカタログ的な構成をとり、日本が明治初期に欧米輸入の弾薬から離れ、自国生産の方向へと歩んで行った過程に沿って解説がなされている。
(日本の6.5mm弾初期の各種と刻印の説明)
第1巻では口径20㎜までの小火器弾薬のカラー写真、図、諸元、刻印(これが研究家には重要だが)を詳細に解説している。陸軍が明治30年、他国に先駆けて小口径化に進んだこと、独自の自動拳銃弾を開発したことなどは日本銃砲史の画期的な事項である。(欧州では9㎜パレベラムのように共通なものになっていた。)
目次紹介
1:歴史的背景 日本の近代化
2:兵器の開発
3:初期の小銃、機関銃弾薬
4:拳銃弾薬
5:南部拳銃と短機関銃弾薬
6: 6.5㎜弾薬と派生
7:英国製の日本の6.5㎜弾(第一次大戦中、日本が輸出した小銃用、エンフィールド工廠で製造)
8:中国製の日本の6.5㎜弾(中国の軍閥が日本より輸入した小銃用、南京など各地の工廠で製造)
9:他国の日本の6.5m弾(ロシア、フランスなど)
10:その他の小銃弾
11:7.7㎜半起縁弾
12:7.7㎜無起縁弾
13:海軍起縁7.7㎜弾(英国弾.303)
14:7.9mmモーゼル弾
15:陸軍12.7mm航空機搭載弾
16:海軍13.0mm 2型航空機搭載弾
17:13㎜試製弾
18:海軍13.2mm弾
19:14㎜試製弾
第2巻では20㎜以上40㎜までの主に対空砲、対戦車砲など大型弾薬の紹介
(日本の対空弾特殊進化の説明)
20:大口径機銃
21:陸軍20㎜機銃弾
22:海軍20㎜機銃弾
23:短薬莢弾
24:28m信号拳銃弾
25:海軍25㎜ホチキス弾
26:海軍試製25㎜航空機搭載弾
27:陸軍30㎜ホ155航空機搭載弾
28:海軍30㎜航空機搭載弾
29:陸軍35㎜信号弾
30:陸軍37㎜弾
31:海軍37㎜回転式弾
32:陸軍40㎜ホ301
33:海軍40㎜弾
6.5㎜弾は弾丸自体に加工が難しいものがあっが、様々な用途の弾薬が開発され
1898年から1945年までの長きに渡り使用された。その間に弾丸の形状などは
何回か変更されていた。現在、小口径化は世界の軍用銃の流れであるが、この弾薬はそのはしりだった。一方、7.7㎜弾は炸裂、焼夷、曳航弾などが開発され
小銃、機関銃に使用された。銃器にはまず弾丸ありき、の論理が強く、多種の
弾薬と火器が開発された。雷管はボクサー雷管を使用せず、底に二箇の穴と
打ち金を使う独特の使いすてだった。
また、旧日本軍弾薬の大きな特徴の一つに、一部を除くが、他国の弾薬と互換性が無かったことがある。また陸軍と海軍で弾薬の互換性を有しなかったことである。明治以降、時間の経過と共に兵器の多様化が進行するにつれて、同口径の銃砲でも陸軍と海軍では異なる弾薬を使用しており、共用は不可能であった。第一戦の戦場では弾薬の補給は複雑となり、その状況のまま昭和20年の終戦を迎えたのであった。米軍では銃器の単一化と弾薬の共用化を進めており、何故に日本のみが複雑な弾薬体系のまま戦争に突入したのか、疑問の残るところではある。
多様な旧日本軍の弾薬体系の現物を知り、その背景に隠された理由を探るには本書の利用価値は非常に高いと言えよう。
しかも本書を超える研究書は日本にも無い。また本書が今後も日本語訳されることはないだろう。陸上自衛隊火器科でも本書をそのまま参考にしている。
本書はオンデマンド版であり、その都度プリントアウト及び内容の更新訂は頻繁に行われている。
(この項以上)