2014年防衛白書、私の読み方

image00

はじめに)防衛白書は今年40回目の発刊だそうだ。本年、自衛隊は60周年を迎えるが、初期の間は白書として行政的に報告書を編さんすることもなかったらしい。中曽根総理の時に一回製作され、しばらくして規則的になった。
無論、防衛省になってからは本格的、しかも本年はコラムを多く入れることで、防衛省、自衛隊の活動や理念を多角的に表現する工夫をしたそうだ。
世界の状況は、地政学的な紛争が各地で拡大しつつあり、日本近海でも東シナ海、南シナ海の各国と中国の海洋進出を巡る軋轢がある。しかし本格的な戦闘には至ってない。
その他では、ウクライナ情勢はロシアとEUの直接対決に向かいつつあり、民航機が巻き添えをくった。イスラエルはガザに侵攻し、3人の少年の命の
1000倍に今一歩2千数百人を殺した。70年前とはまるで反対の存在になった。
シリア、イラクの国内紛争は「イスラム国家」と言う伝統的イスラム主義の武装集団を造り出した。米国と同盟国、それも複雑に利害が入り混じっている状況で、シリアへの空爆も実施している。その他枚挙にあがる紛争、闘争が世界を被っている。冷戦下はイデオロギーの対立であったが、現状は宗教、民族、エネルギー、その他、明確でない概念の対立が絡み合っている。
このような状態を造り出した一つの原因は、米国の対外政策の消極性と対応の遅れにあると感じる。そして国際連合がまったくと言っていいほど機能していない。米国は大統領制であり、選挙対応、国内対応が優先する。強い国際紛争解決力を維持しながら、大統領個人の判断がなければ動けない。
現在の国連の状況は第二次世界大戦後体制の終焉を予測したものだ。

1、日本が対応する中国の軍事力増強の不透明感
中国の軍事費の拡大はすざましいものがある。過去10年間を見ても、量と質
そして海洋進出を意図した拡大は明らかだが、その実態は現れている数字の倍近いのではないか?と言われている。人件費などの統計の取り方、また軍区ごとに産業活動を行い、収入を得ているからだ。
ではその目的は何であろうか?
これが『不透明』で国際社会に納得のいく説明がない。恐らく自国内でも同じだろう。
中国幹部は太平洋を米国と2分する。昔の軍国主義者、国家主義者と同じ発言を米中会談で述べていた。
まずはこれが日本にとっての大きな不安材料である。
中国が太平洋に進出するには、台湾、沖縄列島を自国に編入することは不可欠な要素だからだ。この地政学的に直面する問題は我が国の対応に直接影響を与える。
「平和とは何か」、日本は戦後70年間近くそれを曖昧のままにしてきた。
しかし「平和とは自国の主権の保持」に他ならぬ概念で、それが侵害されれば
もはや平和の状態ではないと定義してよい。

2、国際秩序の不安定化
世界の地政学的な紛争は過去70年間で最大の危機を迎えている。今までも、アフガン、イラクなどソ連、米国が関与した紛争はあった。しかし、現在、先進国は撤退の方向に出ている。中東はシリア、リビア、イラクそして「イスラム国家」、ソ連とEUの関係の緊張を高めたクリミア半島編入、ウクライナ東部のソ連の活動。
(クリミア半島は19世紀にさかのぼれば、ソ連領であるとの定義もできる)
またウクライナ西部のネオナチの台頭(EUに影響を与える)などだ。
ウクライナは欧州とソ連の間の火薬庫だ。
イスラエル問題、同国は明らかに弱体化している。ガザ攻撃は失敗であったと欧米は評価している。
EUの結束は通貨危機を間接的な理由としても具体的な弱体化は否めない。
そのなかでEUとロシアの仲介、EUの指導的立場にいるのはドイツであろう。
欧州の問題は直接日本に大きな影響を与えるものとは言えぬが、1930年代の例を出すまでもなく日本の安全保障には最終的に影響を与える。
その勢力地図は毎日変化している。

3、米国の意思決定の弱体化と各国の変化

image01

先にも述べたが、米国の軍事力は弱体化していない。その運用をつかさどる米国大統領の力が弱体化し、微妙なタイミングで紛争の解決が出来ないことが憂慮されよう。
「イスラム国」の勃興、これは複雑なイスラムの争い(ベトウィン時代より?)の統一性のなさを、イラク、シリアの不安定が基盤として生まれた、非近代的
国家であり、多くの戦闘員を欧米の移民から逆入させ、豊富な資金力を
保持して、前近代的な理念に基づく闘いを継続していることだ。

そして英国の存在力の弱体化、軍事力の整備が遅れている、特に海軍力の未整備、スコットランド独立の内政問題など国際的発言力は近年大いに衰えた。この現実はかって、英連邦のアジア諸国、シンガポール、オーストラリア、ニュージィランドに大きな影響力を与えている。

4、国連の存在価値の急速なる低下
近年、国連は大きな紛争に介入、問題解決ができなかった。
極端な言い方をすればPKOは三流国の仕事であると定義して良いと思う。
日本国自衛隊が国際貢献のためにゴラン高原、スーダンなどに高度に訓練された優秀な隊員を送っていたが、ジブチの海賊対策などを除き、その役目の見直しは必要だ。

image02

(戦車が行けるところでないと意味はない)

5、日本の防衛力の新しい概念
基本的には政治的に強い存在、抑止が目に見える状態を確立すべきだ。
集団的自衛権の議論が昨年なされた。徐々に現実的な対応が行われていることは頼もしい。幾つかの課題を上がるなら以下のようになるのではないか。
これらは「2014年防衛白書」にほとんど述べられているが、押さえるべき極めて重要なものであろう。
1,対中国への具体的対応
偵察能力、情報分析能力、海、空の力の質と量の拡大。
余談だが先日、横須賀米軍基地を訪問する機会があった。先方の注意として、潜水艦、ならびに改装中艦艇の写真撮影の禁止を厳しく言われた。想像すると日米海軍がなにを重要視しているか分かろう。

image03

 

 

2,サイバー攻撃対応力の整備
攻撃国は攻撃前に、日本国のサイバーインフラ、例えばコミュケーション、交通、エネルギー、金融それに防衛体制そのものにサイバー攻撃を多角的に仕掛けて、日本国内を混乱に貶めるだろう。対応策では不足で、当方も強い攻撃能力を備えるべきであろう。

image04

また、マッカーサーの未処理問題のひとつ、第三国国籍条項は日本国内に特定外国勢力が古い言葉で言えば「第五列」を組織化していると言われている。特に沖縄に於いてはその勢力は馬鹿にならないものがあるそうだ。特定秘密保護法は成立したが、戦後処理の一つとして各種の法整備が必要であることは間違いない。
3,島ショウ防衛の具体策
日本は地政学的に特殊な位置にあり、6000余の大小の島々と広大な海洋圏を
保持している。2-3年前までその意識すらなかった。この新しい概念の軍事的
防衛、あらゆる想定を議論し、効率的な装備品、人員を準備すべきで、このことは「白書」を始めさまざまな資料に記されている。集団的自衛権問題が片付きつつあるのは心強い。日本への第三国の大規模侵攻は想定してないとされている。

image05

4,陸上戦闘能力の変換 ミサイルの多角的装備と活用
日本の陸上兵力は冷戦期に形成された。火砲、戦車、空中攻撃力を駆使した
編成になっている。先日見学した化学学校、攻撃は単一的かつ単純なものでない。サイバー攻撃と同じく、生物化学兵器への対応を重視すべきであろう。
火砲、戦車などの装備品の削減を考えた場合、これは大変な作業である。
何か別なこれら従来型装備品の辺境への配備を考えるべきだ。
コスト面の問題はあろうが、大小の各種ミサイル兵器の発達は目覚ましい。
これらの一般的な装備、効率的な訓練(国土の関係で制限がある)を目標に加えるべきだ。

image06

防衛装備品の効率的開発、生産の仕組みつくりはまた日本の大きな課題である。

5,国民一致の対応と危機意識の高揚
気候変動による災害の多発、自衛隊の災害救助、311の地震、原子力災害、
その後の地崩れ、また火山爆発への出動、国民の自衛隊への災害対策への期待は膨らんでいる。しかし災害救助は自衛隊の任務のひとつであり、本来の任務は防衛である。安全保障、外交、軍事的防衛の定義も明確でない我が国の憲法下において、国民が暗黙のうちにも自衛隊の任務を正しく理解しなければならない。基地問題がその一つの例だ。

image07

まとめ)自衛隊の即応、連合、機動、日米同盟など独自の防衛体制確立の
全ての鍵は歴史にある。日本を取り巻く環境、そして脅威は歴史的な研究で
ある程度は予測できる。
日本は13世紀「元寇」と言う当時の世界最大規模の攻撃を受けた。明治以降も
紛争の鍵は朝鮮半島である。さらに中国、ロシアがその後ろにある。
太平洋は日本の生命線である。

image08

様々な詳細な事象も歴史にそのヒントはあろう。
外交は話し合いにより国際紛争を解決する重要な手段である。この力を駆使することも重要だ。しかし世界の現状はその範囲を超えていることも事実だ。
軍事防衛、安全保障は『日本独自』の効率性を重んじ、国民が理解できる
強力な方式を一致団結し創造することが必要であろう。
日本を取り巻く環境の変化はそのまま時代の変化を意味するのである。
(以上)

(この文は筆者が防衛白書、防衛ハンドブック、その他いただいた各種資料を読み、またご説明を聴いての個人的な見解である。)