金子 常 規著『兵器と戦術の世界史』ならびに『兵器と戦術の日本史』

金子 常 規著
『兵器と戦術の世界史』ならびに『兵器と戦術の日本史』
中公文庫 世界史413P、1,000円 日本史319P、925円

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はじめに)著者 金子 常規博士は大正五年生、平成十二年没、帝国陸軍
士官学校卒、戦後自衛隊に入隊し幹部学校教官であった。まさに戦史全般の
権威であり、学者としては一人者であった。古代から現在までの世界、日本の多くの戦争の経緯と勝因、敗因、その背景を分析し内容を明確に指摘した。
私も自分で疑問に思っていたこと、また推察したことに多くの答えを両書から発見した。論理が明確であり、戦争は兵器と戦術の組み合わせである。
我彼が同じ兵器を使用して戦争をすることは少ない。(現在の状況、例えばウクライナ、中東などは少し状況が異なるが)、そこで戦術、単なる戦争の技術だけでなく多面的な重要な要素を占める。
両書の内容は厖大である。多くの図面、地図をもって各々の闘いを説明しているが、まだ不明確なことも多いと感じた。

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兵器と戦術の具体的な効果)
我彼が同じ兵器を使用して戦うことが無いと言う事実は、絶対に優位性のある相手兵器に対する、血の出るような訓練は無益であると言うドラステックな事実であろう。例えば、機甲戦闘車両、航空機、榴弾砲や機関銃に対抗し、白兵(匍伏、銃剣術、陶器製手榴弾など)は毎日、何時間も大勢の兵に厳しい訓練を課すより、効果ある兵器開発、生産が唯一の対抗手段だと言う結果論である。戦術と言う理論は国家の概念に拡大する。

「兵器と戦術の世界史」の内容)
4部に古代から現代までの戦争の歴史をわけ、多くの兵器の優位性その背景を
戦闘地図を使い説明している。

Ⅰ部
第1章 白兵と弓矢の時代 飛び道具の出現による戦闘の変化
第2章 鉄砲の活動開始 鉄砲は世界史においても大きな戦闘の要素
第3章 小銃主役 朝鮮外征の例
第4章 砲兵への依存高まる 砲の性能が小銃を上回る 産業革命のせい
第5章 小銃ふたたび主役となる (クリミア、米国南北戦争?)
第6章 明治維新を動かした力 西欧の新兵器輸入のタイミング
(第5章の記述は疑問がある、実際に自分で操作すると、ミニエ式小銃は
4斤砲には敵わない)

II部
第7章 近代火力戦闘
第8章 砲兵が戦闘の骨幹となる
第9章 砲兵全盛となる 第一次世界大戦
III部 (第一次から二次世界大戦まで)
第10章 模索の時代 フランスの平和主義が戦争を拡大
第11章 装甲兵器主役になる
第12章 装甲兵器と火力の競争

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第13章 白兵と火力の対決
第IV部 (第二次世界大戦以後)
(近代では国家の躊躇がかえって戦争の原因となる)

『兵器と戦術の日本史』
一部世界史と重なる記述もある。元寇、鉄砲伝来、など
第1章 倭歩兵の興隆と衰退
第2章 律令徴兵歩兵の誕生と収束
第3章 少数精鋭騎兵の勝利
第4章 突撃騎兵と予歩兵の衝突 元寇

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日本と元の船
第5章 歩兵の台頭 南北朝
第6章 足軽歩兵の地位
第7章 陸の鉄砲、海の大砲 文禄・慶長の役 輸送の問題
第8章 洋式近代軍の勝利 幕末戊辰戦争
第9章 大政官徴兵制の勝利 明治期の軍隊

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西南戦争
第10章  日本帝国軍の盛衰 日露戦闘から第二次世界大戦まで、

日本歴史上大きな国難は、元寇、日露戦争などが例に出されている。
小銃、大砲の戦闘は産業革命と密接な関係があり、多量の弾薬を消費する。
従って、闘いとは兵器、戦術の優劣と供給できる「弾量」が決めた世界戦史であった。「兵站」と言う意識の重要性は近代なればなるほど強くなる。

厖大な世界と日本の戦史変遷であり、とても単行本6-700Pで語れる内容ではないが、このような形で編集されたことは筆者の研究全体のまとめとしては最適な方法であった。
(この項以上)