陸上自衛隊対馬駐屯地・警備隊研修
目的)
対馬と壱岐の島は朝鮮半島と日本国本土の間に位置し、古来、半島との往来に中継地として重要な役目を果たした。また日露戦争における日本海海戦は欧米では「ツシマ」と呼称されその戦略的な重要性は研究家の間で認識されている。
しかし、日本国において10番目の面積を持つ、かくも重要な位置を占めておりながら、本土の人々は観光・業務においても実際に訪れる機会は少ない。
有史以来の出来事、現状、そして有事の際の在り方これらを、日本の外交史、安全保障史を研究する自分が自ら目にして考える良い機会があり、防衛懇話会の第四師団、航空自衛隊春日基地研修の後、夕方の便で飛んだ。
久しぶりにプロペラのボンバルディ機だった。
お出迎えをいただきホテルに送っていただいた。空港、宿泊したホテル、駐屯地は各々15分くらいの山道を走る。
お出迎えいただいた警備隊のエス氏の先祖は江戸期、農作物への害獣、猪を島で絶滅したことで知られている。鉄砲鍛冶に鉄砲を造らせ、農民を使った。
なるほど、本で読んだが聞いてみて迫力があると感じた。私も先週、2頭仕留めましたと言う話を車中した。
1、 対馬の地形と現況
3週間ほど前、島民が家族ごと殺害され、家に放火された事件は解決してない。
島民はかっては6万人強であったが、現在は過疎化が進みその半分くらい。
地形はフランスバンの真ん中左を誰かがかじりとったような南北に延びる形。
標高650m島全体は台湾のように絶壁で、港は真ん中の部分と北側にあるものがかってより活動していた。
平地は少なく、農業はシイタケや果実を作る。漁業は盛んだ。観光は日本からより韓国から来る人間が多い。山も富洋なものではない。理由は分からないが観察するに土が少なく広葉落葉樹林が多いが木々の間隔は広く大きな樹木は少ない。従って林業は収入にならない山が大部分で北から南まで波のように広がっている。これは行って自分の目で観察しなければわからない。
対馬山猫など貴種な動物植物が多い。
島は一部を除き大体このような地形だ
2、 日本で2番目に小さいと言う駐屯地を訪問した。
翌朝は早く出た。お出迎えをいただき、司令にご挨拶。その後、土曜日にもかかわらず30名近くの幹部にお集まりいただき、私の講義を聴いていただいた。
題目は「近世から近代にかけての日本の海防」で、内容は19世紀、産業革命が進み兵器の発達した列強の日本への圧力、日本の外交、明治維新、その後75年間の軍の構成をパワーポイントの20ページの資料で話した。
隊員の皆さんと小松氏
終了後、直ぐ、今回の訪問の相手先となっていただいたT三佐のご案内、それに対馬防衛協会の小松氏が参加していただき、対馬が元寇以来たどった歴史の現場を見学、研修した。
氏より資料をいただき、歴史、過去のできごとを直接聞けた。
日本で2番目に小規模は駐屯地
3、 対馬の歴史的宿命
有史来、日本が半島との通商が始まったころから対馬はその中間点として地理的存在を活かした。
13世紀、「元寇」があり多くの島民が犠牲なった。
16世紀、豊臣氏の朝鮮半島への侵攻の中間基地となって、日本全国多くの藩の武士が通過した。
17世紀以降、徳川氏と朝鮮李朝の交流があった。
19世紀、日清、日露戦争の中間点となり、島の真ん中、現在の空港近くが掘削され島を回ることなく、艦艇が通過できるようになった。
赤い橋の下が運河
20世紀半ば、第二次大戦中は日本海に封鎖し敵艦が入らぬよう、北端に大砲台(使われなくなった戦艦の主砲を持ち上げたもの)と爆雷砲台が装備されていた。
その武装解除に来た米軍部隊にフランク・シナトラがいたそうだ。
戦艦主砲の台座あと
砲台の内部
岩に描かれた迷彩
小松氏のご説明でこの砲台の戦時中の様子が明確に理解できた。
4、 江戸期の対馬
宗氏が藩主となり主に交易による収入から碌を得ていた。朝鮮から江戸期「朝鮮通信使」と言う一行が宗氏の調整で何回か当来し、対馬は通過点となった。また宗氏は徳川幕府の朝鮮との外交と交易を役目として半島に居留地を得ていた。幕末、日本の海防のため大砲を持ち込もうとして、断られた。
5、 現代の対馬防衛
地政学的にはふたつの任務になろう。
一つは地理的に大陸、半島、沿海部の警戒監視活動で、陸、海、空の自衛隊がそれぞれ連携しながら警戒監視活動の施設をもっているが、多くは秘匿されているようだ。
総員、陸が400名弱、総数700名くらいだ。陸は駐屯地と警備に分けている
日本と韓国の間には軍事協定は結ばれてない。対馬に大きな兵力を置くことは韓国を刺激することになる。しかしながら半島有事が発生すると、日米の双方の防衛線になることは予想できよう。そうでなくても北の核、ミサイル問題の最前線となる位置だ。
6、 これからの日本に安全保障での役割
一番恐れることは誰も口には出さないが、「半島有事」であろう。対馬はその混乱の影響はもろに受けよう。
米軍との統合作戦にも対馬は重要な役目を負うだろう。現在では制空、制海はすでに作戦中の艦艇と本土基地から数分でスクランブルが行える。島の部隊にも多目的誘導弾の装備があろうし、状況によっては増強できる。
現在の紛争で困るのは「難民問題」だ。韓国からは30km、泳いでは無理だが小型船で十分だ。それに北からもどんな形にしても武装した難民の来島が予測できる。しかし島の地形を見るにそれらの人間全部の収容は無理だ。
海峡の真ん中に位置するしまの宿命は今も昔も変わらないだろう。
大きな政治的課題と言える。
おわりに)
対馬陸上自衛隊駐屯地の司令をはじめ、T三佐、広報、その他車の運転をしていた皆さんに感謝する。
「現地現物主義」と言う言葉があるが自分の目で見る、話しを聞く、触ることでさまざまな課題とその解決法が見えてくることがある。
(この項以上)