伊川 健二著「世界史のなかの天正遣欧使節」吉川弘文館
16世紀末の世界はキリスト教の布教、イエズス会が世界各地に活動を広げており、特に欧州では日本布教に関心が高かった。
また経済的にはポルトガルを中心にした大公開時代が、欧州の他国にも広がり、オランダ、英国、スペインなどが世界中に活動を広げ、世界、その中の日本史大きな転換期を迎えていた。
伊川 健二氏は東京大学卒、文学博士であり、現在は早稲田大学に籍を置き、日本銃砲史学会会員である。近年、ロンドンに滞在しこのテーマの研究を、そして「大航海時代の東アジア」とはじめ、この時代に関する多くの著作がある権威である。(日本銃砲史学会例会においても鉄砲伝来の一考察を発表した)、
15-16世紀の航海事情を考えるにこの時代の欧州人のエネルギーは我々日本人にも大きなインパクトを与えその実績の統一、安定しつつあった日本に与えた数々の影響は多くの学者の興味をそそったが、伊川博士の研究活動を日欧両方から俯瞰しているところに特徴があると伝えている。
つまり天正12年(1582)長崎を発った4人の日本人若者たちが長い航海の末、欧州に到達し、法王への謁見、様々な国々の多くの当時の指導層に与えた印象と影響を具体的に調べた、気の遠くなるような研究の成果である。
彼らが長崎、マカオ、マラッカ、コーチン、そして喜望峰を回り、セントヘレナ、そしてリスボンに到達したことは、日本に来ていたイエズ会とキリシタン大名の後押しがあったとは言え、欧州に到達した初めてのキリスト教日本人正史であったからだ。
伊川博士は彼らが訪れた各地の当時の記録や遺跡を丹念に調査しそれらから、欧州で日本がどうとられていたか、マルコ・ポーロの「東方見聞録」のある面では事実、他面誤解の解消にどのように貢献し、彼らの明かに欧州人と異なる容貌などの記述を細かに拾ってきている。
現在の日本のキリスト教徒はわずか1%、近代国家のなかでは極端に少ない。自分で教会に行く、説教を、聖書の説明を聞く、聖歌を歌う、これなら、「プリーチャー」として俺のほうが上手に話せるし歌えると思うほどのお粗末さも経験してる。(プロテスタントだが)
現在の「世界における日本」、その奇妙で特殊な安定はもしかしたら、天正の青年使節が日本に戻ってからの近世のキリシタン禁制の400年間の結果であったのか?という認識を与えてくれた名著である。
伊川博士のもう一度書くが、気の遠くなるようなご努力と詳細な研究結果に敬意を表し、失礼ながら将来の「文化勲章」の「欲」をお持ちになって欲しい作品だ。
(以上、須川 薫雄記)