僕の狩猟 

平成30年12月

はじめに)

ハンティングはスピリチュアルなスポーツだ。
大げさに言うなら、個人としての能力をワンシーンでどこまで発揮できるかだ。
山荘の横には「山の神」を祀った小さな神社がある。
何か伝統的な地域の精神に触れるような気がする。
僕が銃砲所持許可、狩猟免状をもつようになり、そろそろ40年が経つ。
先日、散弾銃の更新を申し込んできた。
その時に記入する書類に過去の銃歴があったが、それによれば散弾銃はすでに
3挺、空気銃を2挺、返納していた。
現在はライフル銃1挺と散弾銃1挺の体制だ。

狩猟免状では比較的早くから網・ワナ猟を取得した。
この40年間、日本国内での狩猟内容も随分変化したが、2度目の米国勤務の
10年間は米国で狩猟した経験があることが想起される。
この経験は日本と米国の銃砲管理と自然に関わる重要なテーマに多くの知識を
得るきっかけとなった。

僕の現在の狩猟)

福島県の山荘が拠点であり、そこに置いてある28年前のジムニーが主な足だ。
銃はライフル銃、ザウエル(win270)7㎜カスタム、ツアィス12倍スコープ付と散弾銃、上下2連、12番ミロクカスタム、スキート銃身。
ライフルはイノシシ猟、散弾は雉、山鳥、キジ鳩、その他駆除対象に使用する。
狩場は山荘から10km内外の山林・原野と耕作放棄地。
犬は使わない。
単独行動の猟だ。巻き狩りもしない。
だが地元の人たちの応援を得ている。ガイドにはかっては空挺隊
出身のYさん、現在は隣のKさんだ。サバキもお願いしていた。
いずれからも付近の様々な情報を得ている。
現在は携帯電話で近くに住む人達からその場その時で情報が得られるので便利だ。

今年の狩猟)

今年はエポックメーキングな年となった。
自分のスタイルが出来た。
Kさんの具合が悪く、一人でスポットを回り、自分で獲物を見つけ、仕留め、
運び、サバイたことだ。無論、調理もした。
狩猟開始から3日目にイノシシ1頭、4日目に1頭目、そして5日目に3頭目を仕留めた。
その間にも毎日、鳥類は複数仕留めた。
午後、鳥類、午後遅くイノシシと時間が分かれるのは効率が良い。

イノシシ猟)

犬を使わず、単独でよくできると言われるが、イノシシが出てくるところ、
時間を推定するのが「技」だと感じる。
また、狩場のご近所や地主の方々とは普段よりの緊密なコミュニケーションが
重要だ。獲物の一部をお分けすることもある。
狩場は自分で設定、例えば「社長の谷」「炭焼ガ原」とか呼び名も付ける。
同じところには連続して行かず周期を保ち、回る。
「社長の谷」はおよそ奥行き1kmの上り勾配の耕作放棄地で牧草の叢だ。
谷の入り口手前に、「社長」と言う方が住んでいて、この社長の先祖が開拓した田だった。現在も家族が大規模に居住している。
田には軽トラが入れる農道があり、谷を見渡すように林道が平行している。
林道を上がり時々下を見る。上がり切り、方向転換して降りてくる。
双眼鏡で慎重に獣の山からの出口付近を観察する。

これを繰り返すと、いつの間にか、すでに暗くなってきた山からイノシシが
出ている。見つけるとそっと降りて、車はエンジンを掛け、ドアも開いたまま
にして、道路を外れ、上から狙う。距離は50m-70mくらいだ。
仕留めたら、農道に回り回収する。こんな手順だ。
見つけた目標は大体、数頭連れですべてがメスであろう。オスは離れている。
あまり大きな目標は撃たない。一人では運搬できないからだ。
子を産んでないメス、体重50㎏くらい、全長90cmくらいを狙う。
ライフル銃には4発装填できるが今までワンチャンスで2発発射して2頭倒したことは一度しかない。
イノシシは天気が悪く、雲が厚い状態では昼過ぎから出てくる。
この時はタイミングが重要だ。
スポットとタイミングを察知するのはいわゆる「勘」だ。

キジ猟)

イノシシ猟が11月中旬、午後4時くらいとすると、午後2時ころから耕作放棄地、と周辺が見える原を車で走る。ここはいるなと思うと、車を止め、徒歩で
散弾銃をもち降りて行く。キジも山鳥もオスが一羽いると周辺にメスが数羽はいることが多い。開けたところでないと、回収が難しくなるので、場所選びが
重要だ。
オスは高い枯草の中かれ出て、ひとりで地面を突いている。
本当は稲刈が済んだ田圃が最適だ。

大きなオスは大体1kg、全長が80㎝ある。
この山のキジは本当の日本雉で羽がとても綺麗だ。毛バリを作る材料にする。
3号弾を下に5号弾を上に装填する。

その他の有害鳥獣)

カラスは非常に難しい。銃を見つけるとすぐに射程外に飛ぶ。
これは自分の敷地で落としたものだ。

以前は渓流釣りの敵、鵜を撃ったことがある。
だが川で撃つのは非常に困難だ。水平撃ちになるし、岩が多い。
山の中のもとは養殖場であった古池のそばでたたずんでいた時に偶然、降下してきたものを仕留めたことがある。3号弾だった。
獣、外来のハクビシン、アライグマ、それになじみのあるタヌキ、テン、アナグマ、見たことはないが、モモンガもいる。
近くの草むらには鼠の穴が多くみられるので猛禽類も来る。
アナグマは、敷地を未明から明け方にかけてうろついている。
イノシシの臓物やカラスなどは片付けてくれる。現在、アナグマは捕まえない
方針だ。

アナグマが庭につけた獣道、落ちたマメ柿を食べにくる。
隣で掛かった、テン、農作物を荒らしにくる。

ワナ免許はどうつかうか)

一つは箱罠で獣を捕まえる。以前はトラバサミが効果的だったが、獣の数は
10年前に比較するとかなり増えている。
主な原因は人間の数が半分くらいに減ったことだ。
道路の整備で曲がりくねった以前の道路が閉鎖され、獣の拠点になっている。
暗渠が整備され、それを伝い、人家の近くまで出やすい。
もうひとつはイノシシのくくり罠だ。
これは地元の協力がなければ実施できない。今年は登録したが、Kさんが
ダウンしたので、掛けることはなかった。
気温の低い山中なので、真冬には氷ついて効かないこともある。
以前はかかったイノシシは村田銃で仕留めたが。

さばき)

T君撮影、今年は初めて同君に手伝ってもらい自分で解体した。
イノシシの場合、体重が40kgだとすると大体半分の肉は取れる。しかし自分でやってみるとなかなか厳しい作業で、中腰のまま4時間くらいかかった。
敷地ないに渓流があるので、このパレットで解体するが、残りは深いところに
沈め、上にパレットを被せて置く。結局は3日かかりだった。
冬の渓流でも水量にすれば水道2-30本分は流れている。水がないと解体は
難しい。
僕の作業では肉は20kg弱しか取れなかった。
鳥類は毛をむしり手羽、足、尾羽、頭、内臓を取っても8割ほどが食べられる。
料理は和風にしても飽きるので、洋風、ジビエにしてワインを飲むのが
楽しい。

課題と反省)

とにかく今の日本での狩猟は安全が第一だ。
事故を起こしたら、全てジ・エンドとなる。
狩猟解禁は11月15日、このころ地域は大変忙しい。
予想もつかないような作業が山中で進んでいる。
山林整備、農地整備、道路工事、測量、観測など、すでに山菜やキノコ採りは終わっているが多くの人が山に入っている。12月-2月は作業の効率が悪くなるので、この時期に集中するのだ。普段閉じている空き家にも連休には人が来る。
山に人がいるかいないかは、道路わきの車で推察する。

一番、後悔するのは鳥類を撃ち回収できないことだ。
犬がおれば問題ないが、藪の中でもバタバタしておれば良いが、鳥は手負いに
なってもとんでもないところに静かに隠れる。そうなるとお手上げだ。
探しに行って、藪の中で漆系の樹木に触り、顔がカブレたこともあった。
イノシシでは土手にいた手ごろな目標を撃った。勿論命中した。
脚が揃い、土手をゴロン、ゴロンと二転がりして、見えなくなった。
渓流に落ちてそのまま流されて行方不明になってしまった。残念なことを
したが、なまじ水中から回収しようとしたら危険だったかもしれない。
狩猟中は必ず偏光のゴーグルを着用するようにしている。
当然、蛍光の猟友会ウエアも着る。

1週間、毎日出猟すると段々自分でも動作が荒くなると感じることがある。
その時は焦らず1-2日休むのが良い。
分かっているがなかなか出来ない。

狩猟の安全には地形の熟知が必要だ。
その点、僕のように30年間、同じ拠点を持ち、地元の人々と交流のあるのは
理想的と言ってもよい。
しかしライフル銃と散弾銃、2挺を持ち猟場に出て、しかも法令を遵守して理想的な猟をすると言うのはかなり難しいことだ。
犬は猟師の友だが、年に10日くらい役にたち、あとの355日を東京の家で
飼うのは無理だ。猟犬は当たりはずれがあり、他人にはなつかない。
米国でマルソンとキジ打ちに行ったときは彼の友人が犬を連れて同行した。

狩猟はアウトドアスポーツの頂点であると感じる。
狩猟民族(日本人の13%がDNAを持つと言われている。る)としての勘が研ぎ澄まされ、それに自然環境の知識、最高の銃とギア(装備)が要求される。
それに自然に社会に対する責任もある。
だが、現状、不特定多数の人々が参加できない。
シーズンが終われば多分お神酒と獲物の心臓を携え「山の神」にお礼に
行くのがまっとうなる現代のマタギの習わしであろう。
(終わり)