「十 手」―破邪顕正の捕物道具―

書評 谷口 柳造著 「目の眼」社刊 
本体価格¥2,800- A4判カラー200ページ

谷口氏は本格的な骨董商であり、骨董全般に博学であるが、長いこと
名和 弓雄先生のもと捕縛術を研究してきた方である。
十手、捕物道具の収集家として高名で、この本の執筆にはおよそ
30年間を掛けたと巷では言われており、現在第二作を執筆中である。

日本の捕縛(逮捕術)には世界にない一つの大きな特徴がある。
それは容疑者、被疑者を殺さずに逮捕する概念で、これは現在にも
生きていると思われる。
例えば米国では拳銃を出せば、警官は直ぐに自分の拳銃を発射する。
多くの場合は拳銃、もしくはらしきモノを出してだけで射殺される
確立は高い。日本警察の方針は「成るべく殺さず対処して、取り調べ、
裁判に掛ける」である。
この伝統は日本の捕物用具は工夫されており、更にその種のものは
さす又など今でも使われている事実でも生きている。

十手は武器としては「打ち物」と呼ばれる種類で、なるべく相手に深刻なる危害を与えず、刃物などを打ち落とすが目的だが、持主の所属や身分を示す道具でもあった。
実物を手に持ってみるとそのバランスの良さ、頑丈な造りに感銘を受けるほどだ。
この本は各種の十手を、身分、地域、制度などで分類し、詳細な写真を中心に説明がある。
さらに万力鎖、房(身分を表す)、鉤縄、手錠、鍵などの写真も綺麗だ。
十手は昭和初期まで使われていた。だが、贋作も多い。
この本のような綺麗で、詳細な写真を見れば贋作は明らかだが、谷口氏は贋作の多くは本体と柄が溶接されたもので、実物は 柄と本体は別で、組み込まれていると語っていた。

さらに、同氏のお話によれば捕物具は、袖がらみ、さす又など長物も、刃物を持ち暴れる危険人物を遠くから押さえるもので、捕縛、逮捕を目的とするものだ。
その目的に同心は目つぶし(砂やトウガラシ、その他刺激物を混ぜた粉末)とそれを吹く道具、小型の短筒を所持してと言う。短筒は短く、二個の早合を羽織りの紐に掛けていたと。丸玉ではなく、上記のような目つぶしの粉を武器を所持する危険者の眼に発射したと。
「殺さず捕まえる」方針が一貫されていた。
現在の警察官拳銃にもそのような弾薬があれば便利だが。

十手は便利で使い易い打ち物ではあるが、その使用には、簡単な道具ほど、十分な訓練が必要の鉄則は当てはまろう。
(以上)