書評 『戦闘技術の歴史』5東洋編
マイケル・E・ハスキュー他欧米人学者4名共著、創元社刊2016年
B5版、363ページ
「戦闘技術の歴史」は主に古代欧州を中心として中東までの戦闘から、武器兵器、戦闘方法の発展をすでに4作出している。いずれも何人かの学者が手分けして自分の専門分野を著し、それらを編集する形をとっている。
ここにきてようやく「東洋の戦闘と武器兵器」の詳細を、時代的には秦の時代から19世紀なかばまでをまとめた。
しかし、東洋における殆どの大規模戦闘は大陸において行われ、元の勃興による11-2世紀が最大のもので日本にも及んだが記録が不足していたのだろう。
この本を読んでの感想は、編集方針が理解しにくい。日本の武器兵器の図や写真を観察しただけでも誤認や疑問が数多くあり、果たしてこの本がテーマにする東洋における3000年の戦いの歴史が正しく述べられているかとの確信は残念ながらもてなかった。その理由は監修者が序文に書いていたが、各々の著者が自分の研究ではなく、すでに書かれた材料を単に料理しただけと言うことにつきるだろう。西洋にとって東洋の正しい歴史、その認識などは「どうでもよい」と言う類に入るからではないか。この問題の背景は現代にも通じる。
正しいと言うか具体的な歴史認識と理解が徐々に始まったのは日本に関しては、開国後、日本を訪れた英国人たちの書いた紀行文、画、写真などからではないか。
日本の鏃、殆ど見たことがないもの
この本によれば、ユーラシア大陸の東は、何千年にもわたり、東西南北に大きな蟻の群れが左右、上下に地面を真っ黒に染めて移動していたような様子であり、権力は国家と言う形をとるも、軍事力により攻める、攻められる状態であったようだ。大陸を出ると言うことは19世紀(産業革命後か)まで難しい状態で、これは日本から大陸に侵攻した文禄慶長の役(16世紀後半)も元寇(12世紀)と逆の立場だが状況は同じであった。
内容は
第一章 歩兵の役割 日本の鉄砲足軽の例が多く引用されているが、
日本の足軽
第二章 騎兵の働き モンゴルの機動性
モンゴルと日本の騎馬
第三章 指揮と統率
第四章 攻城戦
モンゴルの大砲
第五章 海戦 文禄慶長の役が大海戦となっている。また元寇の近年の発掘調査による規模や状況は記述されてない。
文禄慶長期の日本の軍船
上記の如く、内容的には初歩であろうが、日本に於いて東洋における古代から近世までの戦闘研究をほとんどみない現状では欧米で東洋史学をどうみているかを知る資料として参考にはなる。(この項以上)